個人事業主がクレジットカードの支払い分を経費計上する場合、領収書は必要ありません。販売店でもらう利用明細(レシート)、ネットショップでの支払いであればWeb明細が領収書の代わりになります。
本記事は税理士監修のうえ、記帳や確定申告の方法を掲載しています。クレジットカードで決済した場合の仕訳や書類保管方法についてもチェックし、確定申告をスムーズにおこないましょう。
この記事で分かること
- 確定申告の際に領収書の代わりになるものとその取り扱いの仕方
- 経費の計上方法
- 領収書がない場合の確定申告の対処法 など
目次
クレジットカード決済で領収書代わりになるもの
経費をクレジットカードで支払った場合、領収書は必要ありません。
通常、個人事業主が確定申告で控除を受けるためには、支払った証明になる書類(領収書やレシートなど)が必要です。しかし、クレジットカード払いでは領収書は発行されません。
なぜなら、クレジットカードを使用した時点では販売店に現金が渡っておらず、支払った証明にならないからです。そのため、販売店が領収書を発行する義務もありません。
その代わり、クレジットカード払いでは以下のような書類が、領収書代わりになります。
書類 | 概要 |
---|---|
販売店が発行する利用明細書 | ネットショップのWeb明細や取引明細 |
レシート | 実店舗の精算時に受け取るような取引書類 |
本章では領収書代わりの書類の取り扱いについて、詳しく解説していきます。
1.経費として計上するなら販売店が発行する利用明細を残すとよい
クレジットカードで支払った場合は、領収書の代わりになるものが必要です。
例えば、販売店が発行する利用明細(レシート)、ネットショップで取引した場合は、販売店が発行するWeb明細をダウンロードして保管してください。
なおレシートやWeb明細には、下記の内容が記載されている必要があります。
ただし、以下の業種を利用した際には宛名の記載はなくてもよいと認められています。
2.売上票(お客様控え)は必要ない
クレジットカードで支払った際、販売店から渡されるカード会社の売上票(お客様控え)は、必要ありません。
売上票を領収書の代わりとして保管する場合は、先ほどご紹介した「領収書の代わりとして認められる内容」の記載が条件となります。
3.カード会社の利用明細や請求明細は領収書の代わりにならない
以下のようなカード会社が発行する書類は、領収書の代わりになりません。
カード会社が発行する利用明細は、利用した販売店・決済した日付・金額はわかるものの、何に支払ったのかわからないためです。ただし取引の証明にはなるため、税務調査に備えて請求から支払いまでの順序がわかるように保存しておくと、調査官への説明に役立ちます。
個人事業主がクレジットカードの利用明細を使って確定申告する方法
経費を計上する際に必要な販売店が発行する利用明細(レシートまたはWeb明細)は、確定申告でも必要になります。個人事業主がクレジットカードの利用明細を使って確定申告する方法は、下記のとおりです。
カードの利用明細を使った確定申告の方法
特にクレジットカードで支払った経費についての処理がわからない人は、参考にしてみてください。
1.月々のクレジットカード利用明細の内容を帳簿に記帳する
確定申告の際、個人事業主は自分で作成した帳簿を提出しなければなりません。
なお、確定申告は毎年2月16日〜3月15日が提出期限です。1年分をまとめて帳簿に記帳するのは手間がかかるため、都度転記しましょう。「毎月30日に転記する」といった習慣にすれば、確定申告の期限ギリギリに焦らずにすみます。
2.利用明細は確定申告の証憑として保管する
販売店が発行するクレジットカードの利用明細(レシートまたはWeb明細)は、確定申告の証憑(しょうひょう)として保管してください。保管期間は、確定申告の種類によって異なります。
なお、個人事業主の場合、証憑の保管期間は5年間でよいケースもありますが、まとめて7年間保存しておけば煩雑になりません。
3.税務調査の際は必要に応じてクレジットカードの利用明細を提示する
税務調査が入った場合は、販売店が発行するクレジットカードの利用明細を含む、証憑の提出が義務付けられています。年度ごとに分けて保存しておくと、スムーズに提示できるでしょう。
カードの種類が個人用か事業用かで経費計上方法は異なる
個人事業主の確定申告は4種類あります。
上記のどの種類であっても、収益や費用が発生した段階で計上する「発生主義」に基づいた複式簿記での記帳が基本です。ただし、下記の要件をすべて満たす場合は、現金が動いた段階で計上する「現金主義」による単式簿記での記帳が認められています。
現金主義にするメリットは特にないため、多くの個人事業主が発生主義に基づいた複式簿記で記帳しています。発生主義による記帳方法はクレジットカードが個人用か事業用かで書き方が異なるためそれぞれ解説します。
※事業用カードを利用した場合の引き落とし口座は、事業用口座であることを前提として記載しています。
確定申告やカードの種類で計上方法は異なる
「発生主義」に基づいた複式簿記での記帳方法
発生主義による記帳は、クレジットカード払いの場合、取引した日と支払った日(引き落とし日)に記帳する必要があります。
ここでは、以下のような事例を用いて、使用したクレジットカードが個人用・事業用の場合で記帳方法を見ていきましょう。
個人用カードを利用した場合は決済時に勘定科目を選んで記帳
個人用カードを利用して支払った場合は、決済時(クレジットカードを利用した日)に勘定科目を選んで記帳しましょう。
日付 | 借方 | 貸方 |
---|---|---|
2月13日(決済日) | 消耗品費:1,000円 | 事業主借:1,000円 |
引き落とし日の記帳が必要ない理由は、帳簿上クレジットカードの引き落とし日に、事業側でのお金の動きがないためです。
上記のとおり、決済時に勘定科目(消耗品費)を選んで記帳します。また個人のお金を事業に使っているため、事業主借で仕訳します。
事業用カードを利用した場合は決済日に未払金を計上
クレジットカードでの支払いは、決済時にお金が動きません。事業用カードを利用した場合は、まず決済日(クレジットカードを利用した日)に、未払金を計上しましょう。
この場合、2月13日と3月27日の日付で2回記帳しなければなりません。
日付 | 借方 | 貸方 |
---|---|---|
2月13日(決済日) | 消耗品費:1,000円 | 未払金:1,000円 |
3月27日(引き落とし日) | 未払金:1,000円 | 普通預金:1,000円 |
普通預金には、引き落とされる口座名を記入しておくとよいでしょう。
「現金主義」による単式簿記での記帳方法
現金主義による記帳は、取引した日と支払った日(引き落とし日)が別でも、支払った日のみ記帳するシンプルな方法です。
使用するクレジットカードが個人か事業用かによって「貸方」が異なるため、それぞれ見ていきましょう。条件は前述と同じように以下のとおりとします。
個人用カードを利用した場合は支払日に記帳
単式簿記では、引き落とし日のみ記帳するため以下のようになります。
日付 | 借方 | 貸方 |
---|---|---|
3月27日(引き落とし日) | 消耗品費:1,000円 | 事業主借:1,000円 |
個人用カードを利用したため、貸方は事業主借にしてください。
事業用カードを利用した場合も個人用カード同様の日付
個人用カードのときと同様に、引き落としが発生した日の記帳となります。
日付 | 借方 | 貸方 |
---|---|---|
3月27日(引き落とし日) | 消耗品費:1,000円 | 普通預金:1,000円 |
事業用カードの場合、貸方は普通預金にし、引き落とされる口座名を記入しておくとよいでしょう。
【税理士解説】クレジットカード払いを経費計上するときのポイント
クレジットカード払いで経費計上するときのポイントは、下記のとおりです。
経費計上するときのポイント
5つのポイントについて、税理士が詳しく解説します。
忙しいなか経理作業に手を煩わせないためにも、ポイントを押さえてスムーズな確定申告を目指しましょう。
1.経費計上できる出費・できない出費を確認する
クレジットカードを事業用と個人用で分けていない場合、プライベートな買いもので発生した出費は経費に計上できません。経費計上できる出費かどうか、事前に確認しておきましょう。
経費に計上できる項目は、下記のとおりです。
勘定科目 | 例 |
---|---|
人件費 | 給与、各種手当 |
消耗品費 | 文房具、コピー用紙、メモリーカード |
接待交際費 | 取引先との会食代、お中元、贈答品代 |
旅費交通費 | 電車代、タクシー代 |
研究開発費 | 新製品の開発費用、新技術の発明費用 |
新聞図書費 | 事業に必要な知識を身につけるための書籍代、メールマガジンの購読料 |
通信費 | インターネット利用料、電話料金、切手代 |
広告宣伝費 | チラシ、パンフレット、SNS広告 |
地代家賃 | 事業所や駐車場 |
減価償却費 | 固定資産を一定期間に配分する会計処理 |
福利厚生費 | 健康診断料、社員旅行費、レクリエーション費 |
修繕費 | 有形固定資産を修理した費用 |
支払手数料 | 振込手数料、代引き手数料、法人カードの年会費 |
租税公課 | 事業税、固定資産税、自動車関連税 |
2.還元されたポイントやマイルを利用した場合は値引きや雑収入として仕訳する
事業用のクレジットカードで経費を支払った場合に還元されるポイントやマイルは、値引きまたは雑収入の勘定科目で仕訳します。
ポイントやマイルを利用して支払った場合は、レシートの記載方法に従って以下のように仕訳してください。
借方 | 貸方 | |
---|---|---|
パターン1(値引) | 消耗品費:1,069円 | 普通預金:1,069円 |
パターン2(雑収入) | 消耗品費:1,090円 | 現金:1,069円 雑収入:21円 |
出典:共通ポイント制度を利用する事業者(加盟店A)及びポイント会員の一般的な処理例|国税庁
3.二重計上しないよう決済ごとに書類はセットで保管する
ひとつの決済に対して複数の証憑がある場合は、二重計上に注意してください。例えば、販売店が発行する利用明細(レシート)とカード会社が発行する紙の利用明細です。バラバラにならないように、ホチキスやファイルでまとめておきましょう。
4.感熱紙の明細書は印字が不明瞭になる場合があるため注意して保管する
クレジットカードで支払った際に発行される利用明細は、感熱紙がほとんどです。感熱紙は時間がたつと印字が薄れてしまうため、直射日光を避けて保管しましょう。
5.クレジットカードの利用明細は7年間保管する
クレジットカードの利用明細は、原則7年間保存してください。ただし、確定申告の種類や収入に応じて保管期間が異なります。
クレジットカードの利用明細や領収書がない場合の確定申告の対処法
クレジットカードの利用明細を残していなかった場合、確定申告の際の対処法として2通りあります。
クレジットカードの利用明細がない場合
それぞれ見ていきましょう。
1.実際に支払ったことを証明できる書類を証憑にする
実際に支払ったことを証明できる書類があれば、証憑として有効です。クレジットカードで支払ったときに店舗からもらった紙の利用明細を紛失したのであれば、カード会社のマイページで取得できる電子利用明細を利用しましょう。
なお、期限が過ぎて閲覧できない場合は、納品書や請求書など複数枚の証憑をそろえ、領収書の要件を満たしましょう。毎月の利用明細を郵送にしている場合は、紙の利用明細でも問題ありません。
2.経費精算伝票を起票する
1の方法でも取得できなかった場合は、経費精算伝票を起票してください。経費精算伝票に記載する内容は、下記のとおりです。
上記の内容が記載されていれば、決まったフォーマットはありません。
電帳法に留意したクレジットカード払いの書類保管方法
電帳法(電子帳簿保存法)により、領収書の原本(または領収書の要件を満たす書類)は電子保存が認められています。クレジットカードの利用明細も電子保存の対象です。
ただし、紙で受領した場合と電子取引で受領した場合で、以下のように保存方法が異なります。
利用明細や請求書を紙で受領した場合
クレジットカードの利用明細や請求書を紙で受領した場合は、原則紙保存です。スキャナによる電子保存も可能ですが、その場合はスキャナ保存を継続する必要があります。
なおスキャナ保存には、媒体や解像度などのさまざまな要件があり、手間がかかります。
利用明細や請求書を電子取引で受領した場合
電帳法(電子帳簿保存法)の改正により、電子取引で発行されたものは電子データの保存が義務化されました。例えば、ネットショッピングやメールに添付された請求書などが該当します。
ただし猶予期間として2022年1月1日から2023年12月31日の2年間は、やむを得ない事情があり、かつ以下の2点を満たせば、紙での保存が認められます。
クレジットカードをビジネスに使うなら個人用と事業用でカードを分けると便利
クレジットカードで経費を支払うなら、個人用と事業用でカードを分けると以下のようなメリットがあります。
個人用と事業用で分けるメリット
日々の会計処理や確定申告をスマートにおこなうためにも、ぜひ参考にしてください。
メリット1.経理作業の効率があがる
個人用カードで経費を支払うと、毎月の経理作業に時間がかかってしまうのが難点です。しかし、個人用と事業用でクレジットカードを分けると、逐一プライベートと事業の支払いを仕訳する必要がなくなります。
また、いつ・どこで・いくら使ったのか、1ヶ月ごとにカード会社のマイページで見返せるため、経費の見直しにも役立つでしょう。
メリット2.会計ソフトとデータを連携できる
クレジットカードで経費を計上することで、経理作業が効率的になります。クレジットカードの利用状況は、月々の利用明細書にまとめて送られてくるため、領収書や販売店が発行する利用明細(レシート)を見ながら記帳する必要がありません。
加えて、経理作業をより効率化するためには、会計ソフトとの連携機能があるクレジットカードがおすすめです。事業用カードを作れば、事業の支払いだけが会計ソフトに連携され、手入力の修正がほとんど必要ありません。また入力ミスも防げるため、正確さが増すでしょう。
メリット3.カード年会費を経費にできる
個人用カードは年会費無料が多いですが、法人カードは年会費無料カードの選択肢が少なく、付帯サービスや利用限度額の条件により、年会費が必要なケースが多い傾向にあります。しかし、事業用カードにかかる年会費は、経費計上できます。なお事業用カードの年会費は、支払手数料の勘定科目で計上することが一般的です。
メリット4.キャッシュフローに余裕が生まれ急な出費に備えられる
クレジットカードを持っていれば、キャッシュフローの調整が可能です。予期せぬトラブルが発生した場合でも、クレジットカード、もしくはカードのキャッシング機能で支払えます。
法人カードであれば、支払いを2ヶ月先に設定できることもあるため、実際の支払いまでに余裕が生まれるでしょう。
メリット5.ビジネス向けの付帯サービスを受けられる
事業用カードとして発行するなら、ビジネス向けの付帯サービスが受けられる法人カードがおすすめです。出張や会食が多ければ、航空券やグルメ系の付帯サービスが役立ちます。カードによってサービスの特徴があるため、自身の事業に合ったものを選びましょう。
個人事業主は経費をビジネスカードで支払えば領収書いらずで管理がラクに
個人事業主は、経理作業に時間を割く暇がない人も多いでしょう。クレジットカードで経費を計上するメリットは、出費が可視化される点です。カード会社の電子利用明細があれば、その月の出費の流れが一目でわかり、大量の紙から利用明細を探す手間がなくなります。そのためクレジットカードを利用すれば、経費の管理がラクになるはずです。
個人事業主がさらに経理作業を効率化するためには、事業用と個人用でクレジットカードを分けることがおすすめです。事業用カードを会計ソフトと連携させれば、経費だけが自動的に連携され、手入力の手間が省けるでしょう。個人事業主が頭を悩ませる経理作業は、クレジットカードがあれば格段にラクになります。